根本 敬 (上智大学名誉教授)
リベラル・アーツにかかせない歴史学のなかにあって、私が担当する「グローバル・ヒストリー」は特に重要な分野です。日本史やフランス史、タイ史といった一国史や、東南アジア史・西ヨーロッパ史・中東史などの特定の地域史を乗り越え、世界の歴史を横に有機的につなげようとする歴史学だからです。それはナショナリズムから自由な歴史学であり、特定の国民国家へのアイデンティティにとどまるのではなく、並行して地球市民としての所属意識も抱けるよう人々を促す歴史理解への努力でもあります。講義ではその意義についていくつかの方法論と先人たちの取り組みを紹介し、わかりやすく刺激的に講義します。
私自身は東南アジア史(特にビルマ近現代史)を専門としていますが、グローバル・ヒストリーへの関心も共有しており、定年退職まで在職した上智大学では同名の講義科目も担当しました。愛国心強調に陥りやすい一国史ではなく、また受験の世界史のような史実詰込み型の歴史でもない、本当の歴史学の楽しみと喜びは、グローバル・ヒストリーの見方を学ぶ中でこそ培われます。
【1989年国際基督教大学大学院比較文化研究科博士後期課程中退、その後、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授等を経て、2007年4月より上智大学総合グローバル学部教授、2023年より同名誉教授。専門はビルマ近現代史。主著に『抵抗と協力のはざま—近代ビルマ史のなかのイギリスと日本』(2010岩波書店)、『物語ビルマの歴史―王朝時代から現代まで』(2014 中公新書)、『アウンサンスーチーのビルマ:民主化と国民和解への道』(2015 岩波書店)等がある。】