北原モコットゥナシ


 20世紀後半には関東地方や中部地方、関西地方に移住するアイヌ民族が増え、いくつかの当事者団体なども作られました。私は関東ウタリ会というアイヌ民族の集まりの中で、親たちの世代(多くは戦後世代)による自文化の取戻しや、社会運動を見ながら育ちました。

 大学進学を機に北海道に移住してアイヌの宗教儀礼を学びはじめ、同時にアイヌ文化の多様性を知るようになり、自分の地元(樺太)の言葉や文化を学ぶために情報を集めました。

 後で気づいたことですが、アイヌ民族についての研究は、多くが非アイヌ(和民族)によって行われてきており、資料の集め方や文化の論じ方も、和民族の目を通したものでした。そのためか、研究対象とされた文化は、人間の生活のダイナミズムから切り離され、静物のように固定的に扱われていました。研究の関心も、おのずと古い時代に限定され、20世紀の半ば以降、つまり私たちが生きてきた時代のことを語る言葉は、研究の中にはありませんでした。そのことに気づいたのは、フェミニズムや障害研究など、マイノリティの当事者研究に触れたことがきっかけです。この経験から、研究・教育における学ぶ者の立場を意識し、文化を学ぶことを通じて社会のあり方を見直すことが大切だと考えるようになりました。授業の参加者は、民族的にはマジョリティである人が多く含まれることと思いますが、ご自身や身の回りの人が持つマイノリティ性と結び付けながら参加することで、議論の理解が深まるとともに、様々な抑圧やハラスメントの解消につながる気づきが得られることと思います。

 

 【北海道大学教授、学術博士(千葉大学)。著書に『アイヌもやもや:見えない化されている「わたしたち」と、そこにふれてはいけない気がしてしまう「わたしたち」の。』(田房永子と共著 303BOOKS, 2023)、『最新アイヌ学がわかる』(佐々木史郎と監修・著 エイアンドエフ,2024),・『ミンタㇻ3 アイヌ民族33のニュース』(小笠原小夜・瀧口夕美と共著 北海道新聞社,2024)、論文に「高等教育機関におけるアイヌ民族へのマイクロアグレッション」(2022『アイヌ・先住民研究』第3号,北海道大学アイヌ・先住民研究センター pp.3-33)などがある。】