森 壮也
親は聴者ですが、兄弟全員が聞こえない先天性のろう者です。そのため「聞こえない」という平均的な聴こえる人たちと異なる私の属性を、家で兄弟と一緒にいる時間はほぼ意識することがありませんでした。むしろ、家庭外の例えば学校などでマジョリティとの違いを強く意識させられてきましたが、こうした二つの世界を小学生の頃から否応なく身近なものとして受け止めてきていました。それは「聞こえない」というアイデンティティに小学校中学年の最初の頃には早くも気づき、マイノリティとしての自分たち兄弟、また特別支援教育の世界を通じて出会った似たような人たちとの交流の中で、常に私の中で強く反芻され、人間を考える時に不可避のものとして培われてきました。授業の「障害と開発」では、ろうに止まらない障害者全般について、また先進諸国ではなく開発途上国という世界のより多くを占める国々にいる人たちの問題を議論します。また「手話言語学」の授業では、ろう者の言語である手話が一見、咽頭や聴覚を用いる音声言語というマジョリティの言語と異なるのに同じ言語であるのはどういうことなのかをとことんまで考えます。前者では、人間開発、後者では言語の本質と発展という共通項について考えます。どちらもマイノリティのインクルージョンのあり方、また世界のダイバーシティのあり方について大きく関与するリベラルアーツです。しかも従来の学問のあり方についても厳しい反省を迫りながら、マイノリティの側から多様で包摂的な社会のために何が提案できるのかを学生たちと共に問うていける授業を作っていければと考えております。
【1987年早稲田大学大学院修了、1991-1993年米国ロチェスター大学大学院、2017-2018年米国カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。著書に、森壮也•山形辰史著『障害と開発の実証分析―社会モデルの観点から (開発経済学の挑戦)』2013年、勁草書房(第17回国際開発大来賞)、Mori, S. & Sugimoto, A. Progress and Problems in the Campaign for Sign Language Recognition in Japan, in , De Meulder, Marryje, et. al. eds, The Legal Recognition of Sign Languages: Advocacy and Outcomes Around the World, 2019, Multilingual Matters.等がある】